
Camelシリーズで現場改善とファンづくりを実現─ クリスピー・クリーム・ドーナツのデジタル戦略

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導入の背景
従来のクイックオーダーは、2日前までの予約しか受け付けられない仕様だった
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導入の効果
デリバリー・テイクアウトの当日予約が可能になり、店舗に行かずとも商品を受け取れるようになった
1937年、アメリカ・ノースカロライナで創業したクリスピー・クリーム・ドーナツは、世界40カ国以上、17,500以上の販売拠点を持つグローバルスイーツブランドです。日本では2006年12月に新宿のサザンテラスに1号店をオープンし、2024年2月現在で全82店舗を展開しています。
同社では2016年、Uber Eats日本上陸の際にいち早くパートナー企業としてデリバリー市場に参入。2021年からはオペレーション効率化を目的にデリバリー一元管理サービス「Camel」を導入し、2024年には事前予約システム「クイックオーダー」のリニューアルとともに「Camel Order」も採用しました。Camelシリーズの活用を通じて、同社は店舗オペレーションの改善と顧客ロイヤリティの向上に取り組んでいます。
今回は、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 若月貴子様、マーケティング部 ファイナンス担当 マネジャー 渥見武士様に、ブランドとしての取り組みやデジタル戦略、Camel導入の背景と成果についてお話を伺いました。
左:若月様、右:渥見様
クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン様の事業について簡単に教えてください
若月様)ブランドとしては1937年にアメリカで創業し、日本には2006年12月に上陸しました。当初は「行列のできるドーナツ店」として注目を集め、全国に店舗を広げました。特に最初の5年間は地方にも積極展開しましたが、2015年には最大64店舗から17店舗を閉店するという大きな決断をしました。これは、2016年の日本進出10周年を前に、今後20年、30年と長く続くためにはどうすべきかを社内で検討した結果でした。
「選択と集中」の戦略で既存店の立て直しに注力し、2017年以降は既存店売上がプラスに転じ、現在は過去最高売上を記録しています。
商品改良とデジタルを活用したサービス品質向上で「また来たい」体験を実現
若月様)閉店が続いていた時期に特に注力していたのが、商品面の改善です。ブランド上陸当初はアメリカと同じレシピで販売していましたが、「甘すぎる」というご意見を多くいただきました。そこで、日本人の嗜好に合うよう、味や食感の見直し・改良を重ねてきました。
もう一つの重要な取り組みが、サービス品質の向上です。どんなに良い商品を提供していても、お客様に「また来たい」と思っていただける体験がなければ意味がありません。閉店が相次いだ時期だからこそ、店頭での接客改善に加え、アプリを活用したリピーター施策の強化にも力を入れました。
アプリ刷新とクイックオーダーで進化した顧客体験
若月様)アプリをリニューアルしたのは2016年で、まさに大量閉店を決断したタイミングと重なります。あの年は、今後の長期成長を見据えた大きな転換点でもありました。翌2017年には「クイックオーダー」サービスを開始し、アプリを顧客接点として活用する体制を本格的に整えていきました。
アプリのリニューアルにあたっては、単なる機能追加にとどまらず、顧客ロイヤルティを高める設計を重視しました。その一つが「会員ランク制度」です。最上位の「プラチナランク」のお客様には、限定イベントの開催など、ブランドとの“つながり”を深める特別な体験を提供しています。
ロイヤルなお客様に対しては、単にクーポンを配布するだけでなく、「ブランドの一員」であることを感じていただけるような価値を届けたいと考えています。こうした施策はまだ改善の余地がありますが、今後も「このブランドと特別な関係を築いている」と感じていただける体験をさらに磨いていきたいと思っています。
また、2017年に導入した「クイックオーダー」は、当初2日前までの予約制で店舗受け取りができるシンプルな仕組みでした。しかし、その裏にはカスタマイズドーナツなど新しい体験を提供したいという想いがありました。クイックオーダーは、アプリリニューアルと連動した私たちのデジタル化の象徴的な取り組みのひとつでした。
デリバリー市場への早期からの参入
若月様)アプリやクイックオーダーだけでなく、デリバリーサービスの導入も初期から進めてきました。2016年の秋、Uber Eatsが日本に上陸した際、当社は最初のパートナー企業のひとつとして参入しました。当時は「デリバリーは個人店向け」というイメージが強く、チェーン店の参入はほとんどなかったと記憶しています。
正直、社内でも「デリバリーって本当に必要?」という声もありましたが、「やってみてダメだったらやめればいい」とまずはトライする姿勢でスタートしました。結果的に、Uber Eatsとの取り組みを通じて社内にデリバリーのノウハウが蓄積され、のちのコロナ禍への対応にも大きく活かされました。多くの飲食店がデリバリー導入に苦戦する中、当社はすでに基盤があったため、比較的スムーズに対応することができました。
特にドリンクのデリバリーは「難しい」と社内では及び腰でしたが、「お店が営業できないなら、売れるものは何でもデリバリーに載せよう」と発想を切り替えました。実現のためには、どのような包装・提供形態であればデリバリーが可能かを細かく検討し、仕組みを工夫して対応しました。
結果的に、コロナ禍という困難な状況ではありましたが、新たな取り組みを進めるきっかけにもなりました。私たちにとっては厳しい環境だったものの、ビジネスの変革という意味ではプラスに作用した部分も大きかったと思います。
「まずトライしてみる」デジタル導入の風土
若月様)DX(デジタルトランスフォーメーション)の成功において本当に重要なのは、どのツールを選ぶかではなく、「社内の体制をどう変えていけるか」だと強く感じています。よくある課題として、「導入しただけで満足してしまう」ケースがありますが、実際には導入後にいかに現場に定着させ、きちんと使いこなしてもらうかが、何よりも難しく、そして重要です。
たとえば、動画トレーニングのサービスを導入した際には、ただ“見るためのコンテンツ”を用意するのではなく、スタッフが「見たい」と思えるようなコンテンツをつくることに注力しました。また、視聴率をモニタリングする専任チームを設け、「今月の視聴率目標は〇%」といった形で明確なKPIを設定して運用しました。
加えて、月に1回、社長メッセージを動画で配信することで、会社として何を大切にしているのかを継続的に発信し、全社的な意識の統一にもつなげています。
そして何より、当社には「まずはトライしてみる」というカルチャーが根付いています。ITやデジタルの取り組みは、やってみなければ成功するかどうかはわかりません。だからこそ、失敗を恐れず、小さなトライを積み重ねていくことが、DXを着実に前進させるための原動力になっているのだと思います。
経営陣がこの重要性を理解し、自らの言葉と行動でその姿勢を示すことが、社内全体の意識を変え、デジタル導入を支える根幹になっていると感じています。
2024年のクイックオーダーリニューアルの背景について教えてください
渥見様)もともと2017年にクイックオーダーを開始した背景には、店舗での電話注文対応が大きな負担となっていたという課題がありました。モバイルオーダー施策には、デジタル注文を促進したいという前向きな目的と、電話注文を減らしたいという切実なニーズの両方がありました。
特にクリスピー・クリーム・ドーナツの店舗では、電話対応に慣れていない若いスタッフも多く、またお客様にとっても、メッセージアプリやアプリ経由の注文が主流となった今、電話でのやりとりは心理的ハードルが高いと感じられることが多かったのです。
一方、従来のクイックオーダーは「クイック」という名称とは裏腹に、2日前までの予約しか受け付けられない仕様でした。当日予約ができないため、結果としてお客様が店舗に直接足を運ばなければならないケースが多く、利便性という点で課題が残っていました。
こうした状況を踏まえ、2024年にクイックオーダーのリニューアルを決断しました。リニューアル後は、当日予約が可能になっただけでなく、デリバリーによる受け取りの選択肢も増え、店舗に行かずとも商品を受け取れる仕組みへと進化しました。
たとえば、ホリデーシーズンなど行列ができる繁忙期においても、クイックオーダーを利用することで、15〜20分後にはスムーズに商品を受け取れるという利便性は、お客様から非常に高い評価をいただいています。実際、昨年と比較してもクイックオーダーの利用数は着実に増加しています。
リニューアルに伴って、パートナーとしてCamel Orderを選定いただいた決め手についてお聞かせください
渥見様)以前のクイックオーダーの運用では、管理サイトから注文情報を印刷して管理するというアナログな方法をとっていました。2日前予約制だったため、事前に準備できる運用ではありましたが、その一方で店舗オペレーションにかかる負荷は非常に大きなものでした。
加えて、デリバリーのニーズが拡大するにつれて、店舗に設置するタブレット端末の数も増加し、オペレーションが煩雑になるという課題もありました。以前は、デリバリーの注文が入るたびに手書きでシールを作成し、それを袋に貼るという手間のかかる作業が発生していたのですが、Camelの導入により、注文内容が自動で印字されるようになり、現場の負担は大幅に軽減されました。さらに、品切れ時の対応においても、複数端末を行き来しながら確認作業を行う必要があったため、業務が複雑化していたのです。
クイックオーダーリニューアルに伴い、Camel Orderを採用した大きな理由のひとつは、こうした複数端末の情報を一元管理できるタブレット集約機能が備わっていたことです。現場での混乱を防ぎ、スタッフが直感的に操作できる環境を整えることは、非常に重要なポイントでした。
役員会でも複数のサービスを比較検討しましたが、最終的な決め手となったのは、機能面だけでなく、サポート体制の手厚さです。どれだけ機能が充実していても、導入後の運用において手厚いサポートがなければ、現場はすぐに困ってしまいます。Camelのサポート体制は非常に信頼できるもので、私たちが安心して導入を進めることができた大きな理由の一つです。
今後Camelシリーズに期待することがあれば教えてください
渥見様)たとえば大口配送への対応などは期待しています。オフィスにドーナツが届くと、社員の方々にも喜んでいただけることが多く、毎日でなくても週1回や月1回など、定期的にデリバリーで届けるような仕組みがあれば、法人需要の開拓にもつながると考えています。
現在は店舗での受け取りが中心ですが、今後はこうした法人向けのデリバリー対応を強化していけると、より多くのビジネスチャンスが広がるのではないかと感じています。
店舗オペレーションの面では、POS(レジ)との自動連携も大きなポイントです。年始に店舗の応援に入った際、通常3台あるレジのうち、1台はデリバリー注文の処理のために使われるため、2台しか使用できないという状況がありました。注文がPOSに自動で反映されるようになれば、手作業での入力が不要になり、店舗の業務負担が大きく軽減されるはずです。
特にカウンター中心の業態では、レジ1台を空けられるかどうかで回転率が大きく変わります。行列の解消スピードが大きく変わるので、POS連携はぜひ進めていきたいと考えています。
eコマースビジネスやデジタル活用について、御社の今後の展望を教えてください
若月様)米国本社からも共有されているのですが、日本はまだeコマースの浸透率が他国と比べて低い状況にあります。売上比率で見ても、グローバルに比べるとまだ半分程度の水準です。
ただし、アメリカで成功しているeコマースの手法をそのまま日本に適用してもうまくいくとは限りません。日本市場に最適化されたベストプラクティスを見つけることが重要だと考えています。
日本の消費者について感じるのは、eコマースに対する心理的なハードルがまだ高いという点です。価格面への抵抗も一部にはありますが、それ以上に「どうやって注文すればいいのか分からない」という不安の声が多く聞かれます。
とはいえ、最近ではモバイルオーダーを利用されるケースが増えており、世代を超えてデジタル化が浸透し始めていることも実感しています。そうした変化を受けて、今後も成長の余地は十分にあると考えています。
仮にeコマースの売上を欧米並みに引き上げることができれば、新規出店をせずとも既存店舗の売上向上が実現できます。それによって投資効率も格段に高まり、結果として持続可能なビジネスモデルの構築につながります。そういった観点からも、今後もデジタル活用には積極的に取り組んでいきたいと考えています。
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